教室化学実験01「乙女心とアントシアニン」

  1. 1年生を対象とした大学基礎演習では「実験レポートの書き方」を教えるために簡単な実験を毎年行っています。教室で行うため、特別な試薬は使わずに身近な食べ物や台所用品を使った実験を設計しています。今年はアントシアニン色素の実験を行いました(行ったのは2013年5月。公開するのを忘れていました)。



  • ●目的

 身近な物を利用してアントシアニンの色の変化とpHの関係を明らかにする。

  • ●実験の背景


 大学へ行く途中の道路の横にはツツジが奇麗に咲いています。アジサイも咲き始めました。紅葉はまだですが、これらのカラフルな色はアントシアニンによるものです。

 花や果実の色素には、カロチノイド、フラボノイド、アントシアン という3つのグループがあります。そのうちのフラボノイドとアントシアンは水に溶けやすく、溶液の酸性度によって様々な色調を示すため、酸や塩基の指示薬としても利用できます。今回の主役はこのアントシアンです。

 アントシアンは、基本骨格のアントシアニジンとそれに糖が結合したアントシアニンの2種類からなり、実際に植物の中に存在しているのはアントシアニンの方です。これらはベンゼン環にOH基がたくさん結合しているので、ポリフェノールの仲間でもあります。このOH基が増えたり減ったり、OCH3(メトキシ)基になったりして茄子のナスニンや、ブドウのオエニン、ツツジマルビンという様々なアントシアニンになります。例えば梅の果実にしその葉を入れて漬けると鮮やかな赤色を呈するのは、しそに含まれているアントシアニン(シソニン)が梅のクエン酸によって発色するからです。

 紅葉もアントシアニンが関与しています。葉っぱには緑のクロロフィルと黄色のカロチノイドが共存しており、クロロフィルの方が圧倒的に多いため緑色に見えます。それが秋になり気温が低下してくると、光合成をやめたクロロフィルが徐々に分解されていき、元々存在していたカロチノイドが目立って黄色く色づいていきます。それがイチョウやポプラなどの黄葉(こうよう)です。一方、葉に蓄積された糖類から赤いアントシアニンを新しく合成するものもあり、それらは秋が深まるにつれてさらに赤く色づいていきます。それがカエデやサクラです。

 今回の実験ではワインやジュースをアントシアニン溶液として利用します。スーパーのお酒コーナーでは「ポリフェノールたっぷり♡」みたいな宣伝文句のワインをよく見かけますが、このポリフェノールの中にアントシアニンが含まれています。無果汁のジュースでも着色料にアントシアニンが使用されているものもあります。今回は赤ワイン、ブドウジュース、クランベリージュース、ブルーベリージュース、紫野菜ジュースをいろいろ準備しました。

 酸・塩基は身近で簡単に入手可能な胃液や血、おしっこや涙を利用しようと思いましたが、学生が嫌だと言うので仕方なく家庭で使用する食品添加物や洗剤をそろえました。

  • ●実験方法

(1) 器具・試料



▶使用器具
透明ボトル(250mL),透明カップ(100mL)、pH試験紙。
アントシアニン溶液
ワイン、ブドウジュース、野菜ジュースなど。
▶酸・塩基試薬
クエン酸(食品添加物)、重曹(食品添加物)、炭酸飲料、虫さされ薬、漂白剤など。


(2) 操作手順
1. アントシアニン溶液の中から好きなものを一つ選び、8倍希釈溶液を250mLボトルに作る。
2. 希釈したアントシアニン溶液をカップに約20mLとる(調べたい酸・塩基の数と比較用にもう1つ)。
3. それぞれの酸・塩基試薬を少しずつ加えていき色の変化を観察する。(比較用カップには水だけを加える)
4. pH試験紙でそれぞれのカップのpHを調べて、pHの順番に並べる。


  • ●実験担当者向けのメモ

 -今回の担当クラスは20名クラスと60名クラスだったので、10グループ分の道具を揃えました。


      〜〜〜 道具 〜〜〜 
ディスポクリアカップ 100mL    100個( 1500円)
クリアボトル 250mL         10個( 1000円)
pH試験紙(スティックタイプ、pH1~14)10個(10000円)


    〜〜〜 その他単価 〜〜〜
虫薬キンカン120mL(800円)、赤ワイン(1000円)、クエン酸500g(1000円、食品添加物)、重曹500g(500円、食品添加物)。

  • ▶実験時間は約50分で、これは2種類のアントシアニン溶液を試すことができるくらいの時間です。片付けの時間は入っていません。
  • ▶酸・塩基試薬の数を変える事で時間を調整しようと考え、60名クラスでは4つに限定しましたが、その効果は定かではありませんでした。
  • クエン酸重曹、漂白剤は事前に水溶液にして準備しておきました。
  • 塩基性側の方が色の変化が面白いので、塩基性の試薬を多く準備した方がよいです。
  • ▶教室で行うため強塩基は使用せず、漂白剤は酸と混ぜても塩素の発生しない酸素系の弱塩基を使用しました(「混ぜるな危険!」の次亜塩素酸ナトリウムではなくて過炭酸ナトリウム)。しかしそれだと色の変化が乏しくなりさみしいですが仕方ありません。
  • ▶ロールタイプのpH試験紙はわかりにくいので、ちょっと値段の高い4色比較のスティックタイプを奮発して購入しました。
  • キンカンは大人気で、みんな「くさいくさい」と言いながら大喜びで使うのでおすすめです(小学生と変わらないですね)。そのためあっとゆう間になくなってしまうのでコストを考えると大人数のクラスには不向きです。
  • ▶ アントシアニン溶液には、100%ブドウジュース(ウェルチ)、100%ブルーベリージュース(ちょっとドロドロしている)、クランベリージュース(20~30%、100%はないみたい)、赤ワイン(ポリフェノールたっぷり!とラベルに書いてあるもの)、紫野菜ジュース、ぶどうカルピス、グレープ味のファンタ(無果汁だけど成分表にはアントシアニン色素と書いてある)などで試してみました。2、4、8倍希釈で試しましたが、8倍希釈くらいがよいと思います(好みもありますが濃いと色が分かりにくいので)。
  • ▶一番のお勧めはぶどうカルピスです o(≧∇≦)o 。パステルカラーっぽい色が奇麗に出ますし、甘くていい匂いがします。カルピスが好きな人はテンションがあがると思います。でも成分表には“野菜色素”とあるので、少し考えさせられます。ブドウ由来じゃないんだろうか。
  • ▶次にお勧めは赤ワインです。色が奇麗にでますし、お子様な1年生は”お酒”で少しテンションがあがるようです(飲ませてはいませんよ)。ポリフェノールたっぷり♡が良いのかもしれませんが、普通の赤ワインでは試していないのでわかりません。
  • ▶野菜ジュースやドロドロ系の100%ジュースは沈殿物が邪魔ですが、色はちゃんと出ます。ファンタはあまり美しくなく、学生のテンションが下がるのでやめた方がよいです。

▶2種類のアントシアニンの色を並べて比較できるように、カップはもっと大量に準備しておけばよかったです。
▶漂白剤を入れたアントシアニンの中には、時間が経つにつれてだんだんと褐色〜黄色に変化していく物があります。これがアントシアニンの(不安定という)性質なのか、“漂白剤”としての作用なのかは不明です。